本年度は、一昨年度、昨年度の研究結果を踏まえて、ERK分子の二重リン酸化の分子機構ついてのさらなる詳細な検討を行った。昨年度までに、ERK分子がMEK分子によってprocessiveにリン酸化を受けることを見出した。これは実験結果に基づく反応シミュレーションにより予測され、実験的に証明したのだが、反応シミュレーションのパラメーター依存性については検討していなかった。そこで、反応シミュレーションに用いたパラメーターをNelder-Meadシンプレックス法により最適化し、これまでに報告されてきたdistributiveリン酸化モデルと今回我々が報告したprocessiveリン酸化モデルのどちらか妥当かを赤池情報基準量(AIC)により評価した。その結果、パラメーター推定に用いるパラメーターをリン酸化モデルに限定すると、後者のprocessiveリン酸化モデルが妥当であることが分かった。ちなみに、パラメーター推定の範囲を脱リン酸化まで広げると、より実験結果に一致するパラメーターセットを見出すことができるが、AIC値が上昇してしまい、これらのパラメーターモデルは適切ではないことが示唆された。したがって、我々が見出したprocessiveリン酸化モデルは、実験的にも理論的にも妥当であることがこれらの解析で明らかになった。本研究結果は、米国アカデミー紀要に掲載することができた。
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