ホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)は、インスリン刺激依存的に産生され血中から末梢組織に糖取込みを促進する。PIP3ホスファターゼはPIP3を脱リン酸化する酵素であり、この糖取込みを抑制する作用を持つ。 本年度はまず数多く存在するPIP3ホスファターゼによる糖代謝への影響を検討した。筋肉細胞におけるPTEN、SHIP2およびSKIPという3種類のホスファターゼの発現をRNA干渉法によって抑制し、インスリン刺激時における糖代謝を比較検討した。その結果、3種類の中でSKIPの発現抑制によって一番顕著にグルコース取込みが上昇したことから、SKIPはインスリンシグナルを特異的に抑制することが明らかになった。同様の実験を血小板由来増殖因子刺激におけるAktのリン酸化を指標に検討を行ったところ、PTENの発現抑制による効果が一番顕著であった。これらの結果は、PI3キナーゼによる細胞内PIP3の産生がリガンドによって空間的に異なる位置で起こっていること、そして、PIP3ホスファターゼはランダムにPIP3を脱リン酸化しているのではなく分子によって細胞内の異なる空間的位置に局在するPIP3に働きかけていることを示唆している。 続いて、SKIPによるインスリンシグナル作用機序を知る目的でSKIPの結合分子の検索を行った結果、小胞体に局在するシャペロン分子が同定された。SKIPはインスリン非刺激の状態では小胞体に局在しインスリン刺激によって細胞膜に移行するが、このシャペロン分子の発現を抑制させるとSKIPの細胞膜への移行が顕著に抑制された。これはシャペロン分子がSKIPによるインスリンシグナルの制御に必要であることを示唆している。 今後、SKIPとシャペロン分子の結合を介したSKIPによるPIP3脱リン酸化を介したインスリンシグナルの制御機構を明らかにしていく予定である。
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