研究概要 |
近年、癌においてmicroRNA(miRNA)が癌促進もしくは癌抑制因子として機能することがわかってきた。しかしながら、癌部におけるmiRNAの産生調節機構に関しては、不明な点が多い。 この課題に対し我々は、これまでの解析で以下の点を明らかにした。 (1)二本鎖RNA結合蛋白質であるNuclear Factor 90 (NF90)と結合パートナーであるNF45の複合体(NF90-NF45)が、miRNAの生合成において負に作用する。 (2)肝細胞癌の手術標本を用いた発現解析により、NF90-NF45の発現が癌部で有意に高い。 (3)肝細胞癌の細胞株の増殖は、NF90のノックダウンより顕著に抑制される。 (4)肝細胞癌の細胞株において、NF90は、癌抑制miRNAとして報告されているmiR-7の産生に対し、抑制的に作用する。 上記(1)~(4)の結果より、何らかの要因で発現増加したNF90-NF45が、癌抑制miRNAの産生を低下させ、腫瘍化が促進するのではないかと考えられた。 そこで本年度は、癌部においてNF90の発現が増加する要因を解析した。 その結果、以下の点が明らかとなった。 ・転写因子E2F1,2が、NF90遺伝子のプロモーター領域に作用し、転写を活性化する。 ・E2F1,2は、肝細胞癌の癌部において発現が増加している。 これらの解析結果より、癌部におけるNF90の発現増加には、転写因子E2F1,2が関与する可能性が示唆された。 従来よりE2Fは、癌抑制遺伝子Rbの変異やリン酸化と共役し、癌化を促進することがわかっている。本年度の解析により、E2Fの癌化シグナルとして、新たに、NF90を介して癌抑制miRNAの産生が低下する系を見出すことができた。
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