スフィンゴミエリン合成酵素1(SMS1)は、ゴルジ体においてセラミドをスフィンゴミエリンに変換する酵素であり、細胞内のスフインゴ脂質の局在バランスを調節する重要な役割を担っている。これまでに、我々は、SMS1ノックアウト(SMS1-KO)マウスを用いた解析により、SMS1-KOマウスではグルコース刺激により分泌されるインスリン量が極端に低下していることを見出していた。そこで、本研究では、細胞内のスフィンゴ脂質が膵β細胞からのインスリン分泌を制御するメカニズムの解析を行った。まず、SMSl-KOマウスの膵島のイオンチャンネル機能を測定したが有意な変化は認められなかった。次に、SMS1がゴルジ体に局在することから、SMS1-KOマウスにおいて細胞内オルガネラにおけるセラミド量に変化が生じている可能性を検討したところ、膵臓のミトコンドリアにおいてセラミドが増加していることがわかった。また、SMS1-KOマウスの膵島では、グルコース刺激によるATP合成が著しく低下していたことから、ミトコンドリア機能が低下していることが示唆された。一方で、SMS1-KOマウス膵島のミトコンドリア膜電位は上昇しており、活性酸素種の産生が活発であることがわかった。また、それに伴い膵島のタンパク質は活性酸素種による修飾によりダメージを受けていることがわかった。実際、SMS1-KOマウスの膵島では、ミトコンドリア電子伝達系のタンパク質の発現が上昇していた。以上の結果から、SMS1-KOマウスの膵β細胞では、ミトコンドリアにおけるセラミド量が増加したことにより、ミトコンドリアの電子伝達系に機能不全が生じ、その結果として増加した活性酸素種がミトコンドリア電子伝達系の機能不全を促進しており、その機能不全を補うために電子伝達系タンパク質の発現が上昇していると推定された。
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