ES細胞に加え、近年樹立されたiPS(induced pluripotent stem)細胞は再生医療実現の要であるが、こうした細胞の再生医療応用については様々な問題が存在している。特に、ES細胞およびips細胞の腫瘍原性は現在克服すべき最優先課題の一つであるが、これらの細胞の腫瘍原性メカニズムについてはほとんど明らかにされていない。そこで、我々はセリン・スレオニンキナーゼをコードする癌抑制遺伝子LATS2に注目し、下記の検討を行った。 LATS2がES細胞の腫瘍原性を減弱させる能力を有するか否かを検討するため、ES細胞においてLATS2を安定的に発現させた。このLATS2発現ES細胞の増殖能について検討した結果、増殖能が減少することが明らかとなった。また、酵素活性を消失させる変異体を用いた結果、この増殖抑制にはLATS2の酵素活性が必要であることが示唆された。さらにLATS2発現ES細胞をヌードマウスに導入した結果、腫瘍形成が抑制されることが示唆された。これらのことから、LATS2がES細胞の腫瘍原性を抑制させる働きがあることが分かった。また、強制発現したLATS2はタンパクレベルにおいて不安定化することが明らかとなり、ES細胞では抗腫瘍作用を有する因子を積極的に分解するシステムが存在していることが示唆された。LATS2が腫瘍原性を抑制させる理由と抗腫瘍作用因子分解システムの解明は、ES細胞の腫瘍原性喪失に近づくと考えられる。現在、これらの知見がヒトips細胞でも適用可能であるかを検討するため、LATS2発現ヒトips細胞の樹立を行っている最中である。
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