本研究では、セリン・スレオニンキナーゼをコードする癌抑制遺伝子LATS2に注目し、ES細胞などの幹細胞が有する腫瘍原性の克服とメカニズム解明を目的とした。昨年度の検討により、LATS2がES細胞の腫瘍形成能および増殖能を減弱させることに加え、この効果にはLATS2の酵素活性が必要であることを明らかとした。また、ES細胞においてLATS2を安定的に発現させているにも関わらず、タンパクレベルにおいて不安定化していくことを見出した。LATS2不安定化機構の解明は幹細胞の腫瘍原性メカニズムの解明につながることが考えられたので、本年度は、LATS2の不安定化メカニズムを解明する目的で種々の検討を行った。タンパク質の不安定化にはユビキチン-プロテアソーム系による修飾・分解が知られている為、まずプロテアソーム阻害剤であるMG-132を用いて検討した。その結果、MG-132を用いてもLATS2タンパク質の減少は回避できなかったことから、LATS2の不安定化はユビキチン化を介するものではない可能性が示唆された。次に、他の因子によるLATS2への修飾がLATS2不安定化に関与する可能性を考え、LATS2をリン酸化することが知られているAuroraキナーゼに注目した。Auroraキナーゼ(Aurora-A)を強制発現させることによりLATS2の発現は上昇したものの、LATS2の不安定化をキャンセルできなかったことから、LATS2の不安定化にはAurora-Aは関与しないことが考えられた。以上の検討により、LATS2が幹細胞の腫瘍原性を減弱することに加え、ES細胞では抗増殖活性を有する因子を積極的に分解するシステムが存在している可能性が示唆された。
|