近年、急速な高齢化社会を迎え、加齢に伴う更年期障害の一つとしてうつ病が注目を集めている。女性では閉経に伴うエストロゲンの急激な低下により、抑うつ、不安やうつ病のリスクが増加する。また、男性更年期障害としてもうつ病が広く認知されつつある。性ステロイドホルモンは種々の核内受容体を介した、標的遺伝子群の転写調節によりその生理作用が発揮される。このように、性ステロイドホルモンは抗うつ作用を有していることは明らかであるものの、その作用機序は不明な点が多い。そこで本研究では、性ステロイドホルモン依存性うつ病モデル動物の確立を図るため、アンドロゲン受容体(AR)、及び二種のエストロゲン受容体(ERα、ERβ)の3重欠損、2重欠損、及びそれぞれのシングル遺伝子欠損(KO)マウスの作出を行った。3重ヘテロマウス3重KO雄マウスは正常に出生したものの、性特異的行動発現が完全に消失していたばかりでなく、明暗往来テスト、高架式十字迷路テスト、オープンフィールドテストにおいて顕著な不安行動障害が観察された。したがって、性ステロイドホルモン依存件うつ病モデルマウスの確立に成功したと判断した。次にマイクロアレイ解析により、標的遺伝子群の検索を行った。その結果、アンドロゲン受容体及びエストロゲン受容体はそれぞれ協調して、リガンド依存的に転写因子Xの転写調節を介し、セロトニン1A受容体の発現を正に調節することで、抗不安作用を発揮している可能性が示された。
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