本研究はヒト加齢黄斑変性症の発症メカニズムの解明を目的としたバイオマーカーの探索を目指している。解析手法として採用する質量分析イメージングは、組織切片上に予めマトリックスと呼ばれるイオン化促進の働きを持つ有機試薬を均一に塗布し、レーザー照射によるラスタースキャンを行う。これによって得られた各点のスペクトルから任意のシグナルを抽出し、各点でのシグナル強度に応じた二次元分布として生体分子を可視化する手法である。この手法では、様々な分子が混在して構成される組織切片に対して直接質量分析を行うことから、検出可能な分子が制限されてきた。本年度は、動物およびヒト由来の組織切片を用意し、切片上へのマトリックス塗布方法の最適化を行うことによって多くのシグナルを検出し、各分子の分布を可視化することに成功した。さらに組織切片上において多段階質量分析を行うことによって、これまで質量分析イメージングで報告されてきたホスファチジルホリンやスフィンゴミエリンだけでなく、そのリゾ体とトリアシルグリセロールの分子同定を脂肪酸組成を含めて解明することに成功した。以上の成果をLipids (2009)およびPlacenta (in press)に報告した。リン脂質のリゾ体は様々な疾患に影響を及ぼすことが報告されている。来年度に計画しているヒト加齢黄斑変性症の試料を解析し、バイオマーカーを探索する上でリン脂質のリゾ体は非常に重要な解析対象となる可能性がある。
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