研究概要 |
本年度では,血栓や動脈硬化などの血管病変に関わると考えられる血中スフィンゴシン1-リン酸(Sph-1-P)シグナルの破綻について解析を行う目的のため,Sph-1-Pのキャリア蛋白質であるリポ蛋白質(LDL,HDL)およびアルブミンへの分布動態を中心とした解析を行った.我々は以前に,活性化血小板から放出される大量のSph-1-Pが主としてアルブミンへ受け渡され,HDLよりもアルブミン優位に分布する事でSIP受容体への作用がほとんど制限されない可能性を報告した(Journal of Biochemistry 138,47-55,2005).これに対して本研究では,血中Sph-1-Pの恒常的な供給源である赤血球から放出されたSph-1-Pの血漿中分布を[^3H]標識されたSphを用いて解析した.赤血球から放出された[^3H]Sph-1-Pは,活性化血小板の場合とは異なり主としてHDLに分布する結果から赤血球は過剰なSph-1-Pシグナルを生み出さないことが示唆された.また,正常な血漿中のSph-1-P分布はLDL:HDL:アルブミンで約1:6:3であるが,外部よりSph-1-Pを添加していくとその分布バランスは徐々にHDLよりもアルブミン優位になることを明らにした.これらの結果から,血中Sph-1-Pのキャリア蛋白質にはその結合容量に限界があり,高親和性のHDLのSph-1-P結合容量を超えるとその過剰なSph-1-Pがアルブミンへ結合分布する事となり,これがSIP受容体への強力な作用に繋がると考えられる.しかしながら,過剰なSph-1-Pは赤血球が細胞内に取り置くことで正常なSph-1-P代謝・合成サイクルが維持することが報告されている.すなわち,その破綻が血中Sph-1-P分布および動態を変貌させ,我々が危惧する病態発現および悪化を招くという可能性を示唆した.
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