研究概要 |
我々は,スフィンゴシン1-リン酸(Sph-1-P)の生理的かつ病理的な役割として血管内皮細胞に対する組織因子(TF)発現増幅を介した血液凝固促進効果を報告してきた.TFは血液凝固反応の初期因子であり,動脈硬化,敗血症やがんなど様々な病因による血栓形成に関与することが示されている.正常な血管内皮は抗血栓性に機能しているが,障害された内皮機能はTF発現を伴う血栓性に偏る.本研究では,幾つかのストレス関連因子により障害された血管内皮細胞のTF発現に対するSph-1-Pの影響について検討した.血管内皮細胞を障害する因子として,トロンビン,炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF-α)およびインターロイキン1β,敗血症に関わるリポポリサッカライド,高血圧に関わるアンジオテンシンIIを使用し,TF発現をイムノアッセイにて検出した.その結果,すべてのストレス関連因子によって惹起された血管内皮細胞のTF発現は,Sph-1-P存在下で相乗的に増幅されることを明らかにした.さらに,TNF-αが発現誘導したTFに対するSph-1-Pによる増幅メカニズムについて特異的阻害剤,半定量的RT-PCR法およびゲルシフトアッセイにより検討を行った.その細胞内シグナル伝達機構は,血管内皮細胞のSph-1-P受容体(S1P1およびS1P3)から共役するGiタンパク質,MEKおよびJNKのMAPKシグナルを介して転写因子Egr-1およびc-Fosの発現を増幅し,それによりTF転写に関わるEgr-1,AP-1およびNF-KBの活性が増強されることを明らかにした.これらの事から,Sph-1-Pは細胞内シグナルのクロストークを介して種々のストレス関連因子によるTF発現シグナルを増幅することが示唆された.
|