上皮組織では隣り合う上皮細胞が細胞間接着装置によって連結され整列することにより、その形態を維持し機能を発現する。しかし、上皮細胞ががん化すると、細胞間接着は破綻し、上皮細胞は間葉系細胞様に形態を変化させ、細胞の運動と増殖が亢進する。この現象は上皮間葉転換(EMT)と呼ばれている。この結果、がん細胞は浸潤・転移能を獲得し悪性化する。逆に、EMTを誘導するシグナル伝達を抑制することや、間葉系細胞における特異的な細胞現象を制御することなどにより、間葉-上皮転換(MET)を誘導しうると考えられるが、EMTやMETの分子機構についてはまだ不明な点が多く残されている。本研究では、私が所属する研究室で発見された接着分子ネクチン-アファディン系に着目し、EMTやMETに関わる分子機構の内、本年度はEMTの分子機構の解明を中心に研究を行い、以下の知見を得た。 1. EMTにおいて亢進する細胞運動におけるアファディンの作用機構 アファディンは細胞内で細胞間接着分子ネクチンと結合することにより、細胞間接着の形成において重要な役割を果たしているが、運動している細胞ではネクチンと結合しないアファディンが細胞の先導端に集積する。このアファディンが低分子量Gタンパク質Rap1、Rac、RhoAの活性を制御して、方向性を持った細胞の運動を促進していることを明らかにした。 2. 運動先導端におけるNecl-5、PDGF受容体、インテグリンavβ3三者複合体とアファディンとの相互作用 運動している細胞の先導端にはNeclファミリーメンバーの一つであるNecl-5、PDGF受容体およびインテグリンavβ3の三者が複合体を形成して局在し、細胞の運動・増殖に必須の役割を果たしている。アファディンはPDGF受容体と相互作用することにより、この複合体が細胞先導端に安定して集積するための分子機構を明らかにした。
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