研究概要 |
形態異常(異型性)はがん細胞に共通にみいだされる特徴である。本研究の目的は、その分子基盤の一端を明確にすることである。当該研究者は、がん遺伝子KRASの導入によりヒト気道上皮細胞に著しい形態変化が誘導されることを示し、マイクロアレイを用いたKRAS下流分子の網羅的検索から、このような形態変化への関与が示唆される複数の候補分子を抽出し、それらの発現解析・機能解析を行った。特にイオンチャンネル制御因子のひとつであるFXYD3は、複数のがん細胞株で極度の発現低下がみられ、ミスセンス変異もみいだされた。また、FXYD3は、核膜や細胞質内の網状構造(中間径フィラメント)に局在を示し、形態制御への関与が示唆された。本課題の達成目標は、FXYD3の発現低下およびミスセンス変異の細胞形態への影響を解析し、異型性の責任分子としての可能性を追求することであった。研究の結果、遺伝子導入によってがん細胞株にFXYD3の発現を回復させると、細胞骨格、特にコルチカルアクチンの整然化が認められた。さらに、変異型のFXYD3は、核のアウトラインの歪化を来した。肺癌切除材料おける免疫組織学的発現解析では、非腫瘍部気管支・肺胞上皮細胞に比較して、腫瘍細胞では有意にFXYD3発現が低下しており、また悪性度の増加に伴ってその発現は更に低下した。96例の肺癌切除材料においては遺伝子変異を見いだすことはできなかった。これらの結果から、FXYD3の発現低下(および変異)は、がん細胞の異型性を引き起こす分子基盤の一つであり、肺癌のプログレッションに関与することが示唆された。研究成果は、国際誌に掲載された(American Journal of pathology, December 2009)。
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