胃腺腫および胃がん患者(胃腺腫8例、早期胃がん22例、進行胃がん23例)より十分なインフォームド・コンセントを得て病変組織ならびに正常粘膜組織を採取し、マイクロRNAの発現変化をマイクロアレイおよび定量的PT-PCRによって網羅的に解析した。胃腺腫および胃がんにおいてmiR-29cの有意な発現低下を認めた。miR-29cの発現低下は進行胃がんにおいてより顕著であった。miR-29cの発現低下が胃がんの進展に重要な役割を果たすことが示唆された。 さらに、胃がん細胞株AGSをDNAメチル化阻害薬およびピストン脱アセチル化酵素阻害薬で処理し、マイクロRNAの発現変化を網羅的に解析した。興味深いことに、エピジェネティック治療によって最も大きな発現変化を認めたマイクロRNAの多くが染色体19番上の反復配列であるAlu配列近傍に位置していた。この変化は他臓器のがんには認められない変化であり、胃がんに対するエピジェネティック治療によってAlu配列に関連したマイクロRNAが優先的に活性化されることが示された。これらのマイクロRNAのAlu配列を含むプロモーター領域は高度にメチル化され、ピストン修飾も不活性化されていたが、エピジェネティック治療によって脱メチル化され、ピストン修飾も活性化されることを確認した。特に最も高い発現上昇を認めたmiR-512-5pは抗アポトーシス因子であるMCL1癌遺伝子を標的としており、エピジェネティック治療によるmiR-512-5pの誘導がMCL1の抑制を介してアポトーシスを引き起こすことが示された。 今後も引き続き胃がんの発生および進展に寄与するマイクロRNAの同定およびエピジェネティック治療の標的となるマイクロRNAの解析を行い、胃がんの新たな予防・治療戦略の開発を目指す。
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