Trib1による白血病発症機構を明らかにし、白血病診断や治療への応用を目指すことを目的として研究をおこなった。前年度までにTrib1による白血病発症にはMEK1との結合を介したMAPキナーゼ経路の活性化とC/EBPaの分解が必須であることを明らかにしており、Trib1はMAPキナーゼ経路とC/EBPa制御において重要なアダプター分子として機能していることをBlood誌で発表した。本年度は実際のヒト白血病症例におけるTRIB1の機能を解明するために、弘前大学の伊藤悦朗先生、群馬県立小児医療センターの林泰秀先生との共同研究によりTRIB1の変異を探索したところ、ダウン症候群関連急性巨核球性白血病(DS-AMKL)において末梢血でのみ見られるsomatic mutationとして107番目のアルギニンがロイシンに置換される変異(R107L)を同定した。このTRIB1の変異はダウン症候群関連白血病で高頻度に見られるGATA-1の変異よりも早く造血幹細胞に生じ、治療によってGATA-1変異を有する白血病クローンの消失後にTRIB1変異を有する幹細胞が優位になっていることが考えられた。このR107L変異の機能を調べるためにマウスのTribl R107L変異体を作製したところ、マウス骨髄移植モデルにおいて野生型よりも迅速に肌を誘導し、またI1-3刺激によるERK1/2のリン酸化をより長く持続させた。このことからR107L変異はgain-of-function mutationであり、AMKL症例におけるMAPキナーゼ経路の活性化の原因であることが考えられた。現在、上記の研究結果をBlood誌に投稿中である。
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