2005年に信州大学の古庄医師により重症進行性のエーラス・ダンロス症候群が初めて報告された。今回、本症候群の近親婚家系2家系をもちいた連鎖解析により、疾患責任遺伝子であるCHST14(carbohydrate sulfotransferase 14)の同定に成功した。CHST14遺伝子は、デルマタンに活性硫酸を転移する酵素活性を有する1回膜貫通型タンパク質であるD4ST1(dermatan 4-O-sulfotransferase 1)をコードする。D4ST1はゴルジ膜に存在し、小胞体で産生される糖タンパク質であるデルマタンプロテオグリカンに活性硫酸基を転移し、デルマタン硫酸を作る。我々は、HEK293T細胞を用いた一過性強制発現系と、罹患者由来の線維芽細胞を用いた系で、変異タンパク質のデルマタンに対する硫酸基転移酵素活性が消失していることを明らかにした。また、皮膚病理検索により、患者真皮においてコラーゲン線維束の形成異常が観察された。そこで、我々はデルマタンプロテオグリカンの中でも皮膚に多く存在しているデコリンに注目し、糖鎖解析を行った。コラーゲン線維束はコラーゲン線維がデコリンの糖鎖であるコンドロイチン硫酸(CS)/デルマタン硫酸ハイブリッド(DS)鎖により束を形成したものである。変異D4ST1タンパク質は、デルマタンに対する硫酸基転移酵素活性がほぼ消失する。結果的に柔軟性のあるCS/DS鎖は、柔軟性を持たないCS鎖のみの構造に置き換えられる。通常外力に対して伸縮自在なサスペンションのような働きがあるCS/DSハイブリッド鎖が、変異によってCS鎖に置き換えられるためコラーゲン線維束は外圧に耐えられなくなり、束形成が崩壊する。このモデルが重症進行性のエーラス・ダンロス症候群の病態の一つであると推測された(Miyake et al. 2010 Hum Mut)。
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