わが国における乳癌の罹患率、死亡率は著しい増加傾向にあり、女性の全悪性新生物死亡の9.0%を占めている。今後さらに乳癌の発生が増加することが予測され、乳癌研究は最も重要な研究領域の一つである。近年マイクロアレイを用いて、生命予後や治療反応性を予測する研究が行われているが、乳腺疾患においては、既存の病理学的分類とは異なるmolecular subtypeの一つとしてbasal-like subtypeが分類された。HER2-/ER-などの発現パターンを示すbasal-like subtypeの臨床上の問題点には、予後不良であること、ホルモン療法やHER2に対するモノクローナル抗体であるトラスツズマブによる治療に抵抗性であることが挙げられる。タンパク質をコードしないnon-coding RNAの一つであるmicroRNA(miRNA)がさまざまな生命現象をコントロールしているとことが次第に明らかにされつつある。われわれはこれまでにEpstein-Barr virus関連胃癌の形態変化にmiR-200 familyが関与していることを報告した(Cancer Res.)が、乳癌発生の増加という社会状況のもと、本研究においては研究ターゲットを乳癌とし、特にbasal-like subtype乳癌を中心にmiRNAの発現解析およびエピジェネティックな変化による遺伝子発現制御機構の関与の有無を検討することを目的としている。現在、乳癌手術症例のパラフィン包埋組織切片を用いて、免疫組織学的手法によりbasal-like subtypeの抽出を行い、解析を進めている。解析によって得られた新たな知見は、一群の治療抵抗性乳癌に対する分子標的創薬への足がかりとなる可能性がある。
|