【背景と研究目的】濾胞性リンパ腫が腫瘍として成立し、増殖・進展するためには、IgH/bcl2転座のほかに付加的な異常が加わることが必要であるが、現在のところこれを決定付ける因子は特定されていない。本研究では、パラフィン組織切片を用いたプロテオーム解析を取り入れ、リンパ腫細胞と濾胞構造を構成する細胞との相互作用の異常の観点を踏まえ、腫瘍性濾胞特異的なタンパクの同定を試みた。 【実験】濾胞性リンパ腫症例のリンパ節病変13例および対照として非腫瘍性胚中心を含む扁桃13例を用い、それぞれのホルマリン固定・パラフィン包埋切片を10マイクロ厚で薄切し、レーザーマイクロダイセクションにてそれぞれの濾胞を選択的に切離した。切離された試料をタンパク分解酵素消化し、これらをliquid chromatograph-ESI-ion trap type mass spectrometryにて質量分析を行った。試料一検体につき3回massデータを取得し、得られたデータに対しMASCOT解析にてタンパクの同定を行った。なお、これらの実験については独立行政法人物質材料研究機構の協力を得て遂行した。 【結果および考察】一回のLC-MS/MSにつきおよそ300~500種のタンパクが同定され、腫瘍性濾胞および非腫瘍性濾胞それぞれ13例において、683種の腫瘍性濾胞に特異的なタンパクと483種の非腫瘍性濾胞に特異的なタンパク、および850種の共通に発現するタンパクが同定された。得られたデータについて相対発現量を算出し、特に発現の頻度と発現差を有するものについてmRNAの比較を行ったところ、massデータと一致した発現の有意差がみられた。さらに腫瘍性濾胞に高い発現がみられたタンパクを組織切片にて免疫染色を行ったところ、腫瘍性濾胞に限局して陽性所見が得られた。今回得られたデータは濾胞性リンパ腫の病態の一端を説明しうるものであり、さらに、濾胞性リンパ腫のみならず他のサブタイプの悪性リンパ腫にも過剰発現を示すタンパク因子を発見できた点においても大変有意義な結果が得られたと考えられる。
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