濾胞性リンパ腫は、およそ80%の症例でt(14;18)(IgH/bcl2)転座を染色体異常として有するが、この転座のみでは濾胞性リンパ腫を発症しないことがマウスを用いた実験系や臨床サンプルの解析データから示唆されている。つまり、t(14;18)転座を背景とした二次的な遺伝子異常やタンパクの発現異常が濾胞性リンパ腫の発症や進展に寄与していることが予想される。本研究では、病変選択的に抽出されたタンパクについてプロテオミクスの手法を用いて解析し、網羅的なタンパクの同定と、候補タンパクの悪性リンパ腫組織での発現解析を行った。方法として、13症例の濾胞性リンパ腫および扁桃組織を用い、レーザーマイクロダイセクションにてそれぞれの濾胞を切り取り、イオントラップ型LC-MS/MSとデータ解析ソフトMASCOTを用いたタンパクの同定を行った。解析の結果、合計2002種のタンパクを同定し、濾胞性リンパ腫では669種、および非腫瘍性胚中心にて483種の特異的なタンパクが同定された。これらの候補タンパクから、濾胞性リンパ腫にて高頻度に同定されるGRHPRおよび非腫瘍性胚中心で高頻度に同定されるPACAPに着目した。定量的RT-PCRの解析では、GRHPRではB細胞性リンパ腫において発現が有意に高く、PACAPでは非腫瘍性リンパ組織において発現が有意に高かった。免疫染色ではGRHPRは腫瘍性濾胞に陽性所見を得た。PACAPについてはphage display法を用い、パラフィン切片およびウェスタンブロッティングにて発現を確認し得た。今回の研究結果からGRHPRおよびPACAPという濾胞性リンパ腫の病態に関与しうる2つのタンパクを同定した。今後はこれらのタンパクとbcl2遺伝子発現との関連性など、悪性リンパ腫細胞におけるこれらの分子生物学的機能解析を進めていく予定である。
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