細胞外adenosineはadenosine受容体を介して虚血や免疫応答に対する細胞保護や腫瘍増殖の制御に関わる。本研究で我々はヒト甲状腺癌組織及びヒト甲状腺癌培養細胞を用いてadenosine受容体の発現及びadenosineシグナルのMMP活性及び増殖能への影響を検討した。Adenosine受容体にはA1、A2a、A2b、A3の4つのisoformが存在するがRT-PCRでは正常甲状腺組織に比し甲状腺乳頭癌組織においてA1 isoform(ADORA1)の高発現が認められた。抗ADORA1抗体を用いた免疫組織化学では乳頭癌の細胞質にびまん性の強発現がみられ、Western blotでも乳頭癌におけるADORA1蛋白の高発現を確認された。ヒト甲状腺癌培養細胞株(WRO、TPC-1、KTC-1、8505C)においても同様にADORA1のmRNA、蛋白は陽性であった。甲状腺癌培養細胞をADORA1選択的agonistで刺激しgelatin zymographyで解析すると活性化型MMP-2/MMP-9の亢進を認め、反対にADORA1選択的antagonistはagonistによるMMP活性の亢進を抑制した。またADORA1選択的antagonistにより甲状腺癌細胞の増殖は有意に抑制された。これらの結果からヒト甲状腺がんにおけるADORA1高発現は甲状腺癌細胞の浸潤能及び増殖を制御していると考えられ、アデノシン-アデノシン受容体伝達経路のシグナル抑制が分子標的治療となる可能性を示した。
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