ヒト乳頭癌組織、複数の甲状腺癌培養細胞株での4種類のアデノシンレセプターA1(ADRA1)、A2a、A2b、A3のisoformのmRNA発現をRT-PCR法で検討したところ、ADRA1の発現が正常甲状腺組織と比較して有意に増加していた。A2a、A2b、A3の発現に差はみられなかった°この結果はWesternblotting法を用いた蛋白量の解析でも同様であった。免疫組織化学法を用いて正常濾胞上皮と腺腫様甲状腺腫およびヒト濾胞上皮由来の腫瘍である濾胞腺腫、濾胞癌、乳頭癌、未分化癌における、上記4種類のアデノシンレセプターの発現を調べた。その結果、ADRA1は正常濾胞上皮では陰性もしくは部分的な陽性像のみであったが、悪性腫瘍(濾胞癌、乳頭癌、未分化癌)の大部分にびまん性の陽性像が観察された。腺腫様甲状腺腫、濾胞腺腫では陰性からびまん性陽性まで様々であった。同様にA2a、A2b、A3の発現は腫瘍と正常組織間に有意な差はみられなかった。更にADRA1の機能を調べるため、甲状腺培養細胞に選択的作用剤(CPA)、阻害剤(DPCPX)を用いたMMTcellgrowth assay、matrigel invasion assay、gelatin zymographyを行った。その結果、阻害剤の使用で甲状腺癌培養細胞の増殖能、浸潤能、活性型matrix metalloproteinase-2、-9の分泌が抑制され、一方作用剤の使用ではそれらの作用が抑制された。 以上よりヒト甲状腺癌組織ではアデノシンレセプターA1(ADRA1)の発現が増加していることが明らかとなった。さらにADRA1が甲状腺癌細胞の増殖能および浸潤能を増加させることが培養細胞において示された。この結果は将来的なADRA1をターゲットとした分子標的治療の可能性を示す第一歩と考えられる。.
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