本研究課題は、胞巣状軟部肉腫特異的キメラ遺伝子ASPL-TFE3の標的遺伝子群を網羅的に同定し、その分子機能を明らかにすることを目的としている。本年度は、次年度以降に行うマイクロアレイ解析に必要な研究資源であるASPL-TFE3安定発現培養細胞株の樹立を行った。 研究室に保存されている全長ASPL-TFE3 cDNAを、テトラサイクリン発現誘導系ベクターpcDNA4/TOに組み込み、pcDNA4/ASPL-TFE3プラスミドを作製した。そして作製したpcDNA4/ASPL-TFE3プラスミドを培養細胞株に導入し、抗生物質による選択培養を行った結果、線維肉腫細胞株HT1080および不死化間葉系幹細胞株UE7T-13において、ASPL-TFE3導入クローンを単離した。またこれらのクローンは、テトラサイクリン添加によりASPL-TFE3の発現を誘導できることがウエスタンブロット法で証明され、ASPL-TFE3発現誘導培養細胞株の樹立に成功した。 本成果により、次年度以降の解析に必要な研究資源が確立され、実施計画に即した研究の遂行が可能となった。また、間葉系幹細胞はいくつかの軟部腫瘍で腫瘍起源細胞の有力な候補と考えられており、技術的に困難とされる間葉系幹細胞で安定発現株の樹立に成功したことは、大きな成果である。さらに、今回樹立した細胞株はASPL-TFE3の細胞増殖能、浸潤能への影響といった機能解析への応用も期待され、有用な研究資源であると考えられる。
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