本研究課題の目的である胞巣状軟部肉腫が腫瘍特異的キメラ遺伝子ASPL-TFE3により獲得する分子生物学特徴を解明するため、本年度は昨年度に実施したマイクロアレイデータの分析とリアルタイムPCR法によるマイクロアレイ結果の確認を行い、以下の成果を得た。 1、DNAマイクロアレイデータの分析ならびに考察を行った。 (1)昨年度の解析で得られたDNAマイクロアレイシグナルの数値化データに対し、解析ソフトGeneSpringによる正規化ならびに検定を行った。その結果、ASPL-TFE3により発現が2倍以上に増加する遺伝子736個、発現が1/2以下に減少する遺伝子169個を単離した。 (2)マイクロアレイにより同定したASPL-TFE3標的遺伝子候補群についてオンライン上のpathway解析ソフトによる考察を行った。その結果、代謝関連遺伝子、サイトカイン関連遺伝子、シグナル伝達関連遺伝子(MAPK経路、JAK-STAT経路、AKT/mTOR経路)、細胞増殖・アポトーシス関連遺伝子などが含まれていることが判明した。 2、リアルタイムPCR法によるDNAマイクロアレイデータの確認を行った。 DNAマイクロアレイの結果を確認するため、ASPL-TFE3標的遺伝子候補群の中で特に腫瘍発生に重要であると考えられる遺伝子を選出し、その発現をリアルタイムPCRで解析した。その結果、細胞増殖・アポトーシス関連遺伝子、シグナル伝達関連遺伝子を含む幾つかの遺伝子で発現の増加または減少を確認した。 以上の成果より、ASPL-TFE3標的遺伝子候補群には腫瘍細胞の増殖、細胞内シグナル伝達系に関連する複数の因子が含まれていることが明らかとなった。今後、本研究で同定されたASPL-TFE3標的遺伝子群の解析を進めていくことにより、ASPL-TFE3による腫瘍発生メカニズムの解明ならびに胞巣状軟部肉腫の分子病態への理解が進展すると期待された。
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