本研究では、胃型・腸型胃癌に特徴的に発現している細胞表面分子を網羅的に解析し、新規胃癌治療の標的分子を同定することを目的とした。本年度は、正常胃粘膜組織および胃癌細胞株MKN-1、MKN-28を材料に、分泌分子、細胞表面分子を効率よく同定できる方法であるCAST法で、細胞表面分子の網羅的解析を行った。合計4320クローンのシークエンスを行った結果、胃癌細胞株においては、DSC2遺伝子が特に高発現していた。DSC2は細胞接着装置であるデスモソームを構成する分子の1つであるデスモコリン2をコードする遺伝子である。胃癌組織80例を材料にデスモコリン2の免疫染色を行った結果、デスモコリン2は腫瘍細胞の細胞膜に染色され、22例(28%)の症例がデスモコリン2陽性であった。胃型・腸型粘液形質との関連を解析した結果、デスモコリン2陽性例は腸型粘液形質を有する症例において有意に高頻度に見出された(P=0.0396)。さらに腸の転写因子であるCDX2を大腸癌細胞株HT29に導入し、デスモコリン12の発現をWestern blotで解析したところ、CDX2導入によりデスモコリン2の発現誘導が観察された。胃癌細胞株MKN-1、MKN-28、MKN-45を材料に、デスモコリン2の発現をRNAiでノックダウンし、細胞増殖能をMTTアッセイで、浸潤能をボイデンチャンバーアッセイで検討したが、有意な変化はなかった。以上から、デスモコリン2は腸の転写因子CDX2により発現が誘導され、腸型形質の胃癌に重要な分子であるとみなされた。デスモコリン2は細胞表面に発現しており、腫瘍細胞のマーカーとして有用である。胃癌細胞株を用いたCAST解析から、デスモコリン2以外にもTMEM50B、TM9SF3等の有用なマーカー候補遺伝子が抽出されており、現在解析を進めている。
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