研究概要 |
アテローム血栓症は、動脈硬化性プラークの破綻に伴う血栓形成により発症する。その一連の過程において、炎症性因子の重要性が明らかにされてきている。本研究では、新規催炎因子であるペントラキシン3(Pentraxin3, PTX3)の心血管イベント発症への関与について、その作用を明らかにし、新規治療薬としての可能性を検討する。 1. 人体病理標本を用いた解析 冠動脈インターベンション治療時に採取された冠動脈プラーク標本、吸引採取された血栓標本、および若年者剖検症例の冠動脈標本を用いて、冠動脈壁・プラーク・血栓組織におけるPTX3蛋白の局在を検討した。手法としては、免疫組織化学(酵素抗体法及び蛍光抗体法)を用いた。PTX3は正常動脈では外膜にのみ発現しているのに対し、狭心症患者のプラークでは、細胞外マトリックスおよびマクロファージで発現が観察され、血栓内にも局在を認めた。 2. 血栓形成における機能解析 (1) 健常ボランティアの血液を用いて、コラーゲン・ADP・トロンビンによる血小板凝集能におけるPTX3の抑制作用を検討した。PTX3添加群では、非添加群と比較し有意に血小板凝集率が低下した。また、PTX3の変異体合成蛋白を用いた検討では、PTX3のN末端領域に血小板凝集抑制作用がある可能性が示唆された。 (2) 血液フローチャンバーを用いた実験では、動脈硬化巣に高発現するI型コラーゲンを固層化したガラス板上に形成される血栓をリアルタイムで観察、測定した。コラーゲン上に形成された血栓の面積率は、動脈速下領域および静脈速下領域ともにPTX3添加群で優位に抑制されていた。 以上より、PTX3はプラークの安定化に作用し、プラーク破綻後の血栓抑制作用を有すると予測される。炎症機序に基くアテローム血栓症の発症機構における新たな解明と、抗血栓薬の開発など、臨床面への応用も期待される。
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