研究概要 |
Sorafenibなど多標的チロシンキナーゼ阻害薬は肝細胞癌において、従来の抗癌剤より良い効果が得られたと報告されたが、腫瘍の浸潤・転移など複雑な生物学的現象に与える影響や機能について解明されていないところが多い。本研究では、ヒト肝細胞癌株と肝細胞癌の進行症例に相当する肝細胞癌転移モデルを用いて、分子標的治療薬の機能と作用機序を解明することを目的とする。 平成22年度では、sorafenibのin vitroおよびin vivoにおいて各肝細胞癌株(KYN2, Li7, HepG2, KIM1,PLC/PRF/5)に対する影響について研究した。接着培養および浮遊培養条件下では、sorafenibによる肝癌細胞の増殖抑制効果はKYN2とHepG2において顕著に認められるが、Li7において効果が低い。KIM1, PLC/PRF/5に対する効果はKYN2とLi7の中間に相当する。また、sorafenibによるアポトーシス誘導はKYN2において認められるが、Li7では誘導効果はみられない。Microarryでは、KYN2,HepG2グループは、Li7より、IRS1,FGFR3,FGFR4,ERBB3,LYN遺伝子の発現が高く認められる。Westernblottingの結果、KYN2においてLYNのリン酸化はsorafenib添加によって減少するが、Li7においては変化がみられない。In vivoの実験では、sorafenib投与により、KYN2のマウス肝内転移抑制傾向がみられた。現在、sorafenibによる肝細胞癌肝内転移抑制機序について、上記タンパクの発現、リン酸化を中心に検討中である。これらのタンパク分子の発現、リン酸化亢進について肝細胞癌株と肝細胞癌臨床材料を用いて検討することで、sorafenibの肝細胞癌における治療効果の予測と効果判定への応用が期待できる。
|