研究概要 |
肺腺癌の新たな予後不良因子として近年提唱された微小乳頭状成分micropapillary componentに注目し、その高侵襲性に関わる分子機構の解明と臨床応用を目指す。 1.アレイ実験は終了し、現在種々の分析法と、インジェヌイティパスウェイ解析(IPA)データベースを用い,データ解析を行っている。 2.今回、微小乳頭状成分の高侵襲性に関わる分子の一つとして水分子輸送膜蛋白であるaquaporin(AQP)1,3,5の細胞増殖、移動能亢進という新たな機能に注目し、遺伝子、蛋白発現解析を行った。 肺癌多数例でのAQP1,3,5の免疫染色での発現解析 159例のヒト肺癌中、癌細胞におけるAQP1,3,5の発現を免疫染色したところ、それぞれ71%,44%,56%の症例で陽性を認めた。陽性率は高分化型腺癌で高く、低分化型腺癌や未分化型癌では低く、扁平上皮癌は陰性であった。肺腺癌中、癌浸潤部ではAQP1,5では極性喪失と細胞質内発現も伴う過剰発現が観察された。AQP1は浸潤性発育と関連し、浸潤最先端部のlamellipodiaでの発現も確認された。AQP1が過剰発現している腫瘍は、micropapillary成分を有する腺癌(p=0.011)と粘液産生型腺癌(p=0.045)において、手術後の転移が有意により高い結果になった。カプラン・マイヤーの分析によって、増加したAQP1発現患者はAQP1低発現レベル(ログランク検定p=0.031)を示している患者と比較して、無症候性生存率で有意差を示した。無症候性生存率は、AQP1過剰発現の腺癌で特にmicropapillary成分を含んだ腺癌症例で、明らかだった。 AQP遺伝子発現と腫瘍進展との関係 micropapillary成分を伴う肺腺癌においては、AQP1の過剰発現は明らかな予後不良因子であることが明らかとなった。
|