研究概要 |
前年度の研究において肺腺癌微小乳頭状成分の侵襲性および生命予後とAQP1の発現亢進の関係が明らかとなった。本年度はAQP1の発現による腫瘍細胞の侵襲性亢進性の機序の解明をHT1080細胞を用い行い、以下の結果を得た。 1.HT1080はAQP1をほとんど産生しない。トランスフェクションによるAQP1遺伝子の強制発現により偽細胞突起形成促進と同部細胞膜・細胞質へのAQP1発現局在に加え、細胞移動と浸潤能亢進がscratch assayとmatrigel invasion assayにより確認された。 2.HT1080をヌードマウスの皮下あるいは大腿筋内接種し異なる転移能を示す自然転移モデルを作成した。後者(HT1080M)は前者(HT1080SC)に比べ肺転移の有意な亢進を認めた。接種部ではHT1080SCは膨張性発育なのに対して、HT1080Mでは筋線維内への偽細胞突起形成も伴う浸潤性増殖を呈し、同部にAQP1の発現亢進を認めた。接種部腫瘤から得られた短期培養細胞では、HT1080MはHT1080SCに比べAQP1の発現亢進に加え、matrigel invasion assayによる浸潤能の有意な亢進を認めた。 3.HT1080M細胞のAQP1遺伝子発現を3種類のsiRNAにより抑制することにより、偽細胞突起の形成と浸潤能の低下がmatrigel invasion assayにより示された。 以上の結果から、AQP1遺伝子の過剰発現は、腫瘍細胞の形態変化、特に偽細胞突起(pseudopodia, lamellipodia)形成の促進を介し、腫瘍細胞の細胞移動能ならびに浸潤能の亢進に関与することが明らかになった。現在、AQP1遺伝子過剰発現によるpseudopodia形成・細胞移動能に関連する詳細な分子機構のin vitroでの解析、HT1080SCへのAQP1遺伝子トランスフェクションによる肺転移亢進のin vivoでの検討、ならびに肺腺癌微小乳頭状成分におけるAQP1,5遺伝子発現誘導機構の解析を進めている。さらに、cDNA array解析により抽出された分子の肺微小乳頭状腺癌の侵襲性への関与に関する検証も進めている。
|