本研究においては、膵臓癌細胞株Panc-1にpTet-Offベクター(Clontech)、次いで転写因子GLI1とその新規標的遺伝子であるHES1、DEC2をコードするpTRE-Tightベクター(CloRtech)を順次導入し、ドキシサイクリン依存性に各遺伝子発現を誘導可能な細胞株Panc-1^<Tet/GLI1>、 Panc-1<Tet/HES1>、Panc-1<Tet/DEC2>を作成、使用した。これらの細胞株を通常の接着性プレートを用いた付着状態と、超低接着プレートを使用した非付着状態にてそれぞれ培養し、各遺伝子の発現誘導が細胞増殖に及ぼす影響を比較測定した。その結果、通常の接着性プレートにおける培養条件下では、GLI1誘導は細胞増殖をわずかに抑制する傾向を示したが、HES1、DEC2遺伝子の発現はいずれも有意に細胞増殖を抑制することを明らかにした。一方、超低接着プレートを使用した非付着状態においては、いずれの遺伝子も細胞増殖を促進させることを見出した。以上から、GLI1-HESI/DEC2経路は膵臓癌細胞の接着状態によって、細胞増殖に対して異なる作用を示し、非付着状態における細胞増殖の促進が、膵臓癌の転移過程や、悪性化における機能の一端を担う可能性が示唆された。また、GLI1遺伝子の間接的な標的遺伝子としてCD24を新たに同定し、GLI1によるHES1の発現誘導が、膵癌幹細胞と考えられているESA^+/CD24^+/CD44^+分画を増加させる可能性も明らかにした。次年度は、GLI1-HES1/DEC2経路による膵癌幹細胞分画の制御という観点からも、ゲムシタビン耐性等の膵癌悪性形質発現メカニズムを検討していくことを予定している。
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