精子細胞におけるmDot1lの役割を調べるためにmDot1lの転写産物を精巣組織から単離、同定したところ、通常よりやや長い転写産物を発見した。詳細な解析の結果、これの産物は新しいスプライシングバリアントである事が判明した。そもそもmDot1l遺伝子にはエクソン1からエクソン28までが存在し、エクソン28はAからDまでを有している。これまでに報告されているmDot1laからmDot1leまでの5種類のバリアントも上記のエクソンの組み合わせから成っている。今回同定したバリアント(mDot1lt)はエクソン27とエクソン28Bの両方を含んでいるが、これは他のバリアントには見られずmDot1ltに特異的な特徴である。そこでこの特異的な配列をベイトにしてYeast two hybridスクリーニングを行った。スクリーニングの結果、8遺伝子が複数個のコロニーから同定された。現在はこれらの遺伝子とmDot1ltとの機能的な関連性や精子細胞における役割等を検討中である。 さらに同定したmDot1ltは一倍体細胞(精子細胞)には見られるが、精子幹細胞には見られなかった。mDot1lは精子幹細胞および未分化精原細胞と精子細胞から成熟精子において発現しているが、本年度の結果から精子幹細胞に発現するバリアントと精子細胞に発現するバリアントは異なっている事が分かった。またこのことがそれぞれの細胞におけるmDot1lの機能的な違いに反映されている可能性も想像される。 21年度の結果よりmDot1lが精子形成に必須である事が示されたことを踏まえると、22年度の結果からは精子形成過程におけるメチル化酵素の機能の一端を明らかに出来た事とともに、mDot1l自体の新しい機能を見つける上での有用な基礎的知見となった。
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