研究概要 |
Epithelial-mesenchymal transition (EMT)は腫瘍の浸潤・転移を促進し、ZEB1とZEB2は様々な腫瘍におけるEMTの誘導に重要な役割を果たす。扁平上皮癌細胞株に肝細胞増殖因子(HGF)による刺激を加えると、EMT様の形態変化を示し、miR-200ファミリー(miR-200a, b, c, miR-205, 141, 429)の発現低下を示した。miR-200ファミリーはいずれもZEB1, ZEB2をターゲットとすることが報告されていることから、HGF刺激による変化の実態を探るべく、これらの関係を検討した。ESCC組織標本による検討では、ZEBの発現は浸潤先端の腫瘍細胞において亢進しており、さらにLCMを用いた解析で、EMTを起こしているような浸潤部の腫瘍細胞ではmiR-200ファミリーの発現が低下していることが明らかになった。このZEBの亢進とmiR-200ファミリーの低下はまた、ESCC細胞株を用いた検討でも、EMT様の間葉系細胞様の形態を示すものに特異的にみられた。EGFRの過剰発現とp53の変異を導入したヒト食道上皮細胞株ではZEBが高発現し、TGF-β刺激によって容易にEMTが誘導されるようになっており、3次元細胞培養による観察では、このような細胞は著明な下方浸潤を示すようになり、遺伝子解析でもZEBの亢進をはじめ、EMTに特徴的とされるプロファイリングを示した。さらに、ZEBのノックダウンを行うとEMTの誘導が抑制された。これらのデータはZEBがmiR-200ファミリーにより制御され、ESCCの浸潤により誘導されてEMTを起こすと考えられ、食道癌の発生と広がりについての新たな見地を示すものである。
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