本研究の目的は、家族性胃がんという胃がんを発症しやすい家系における遺伝子異常を同定することにより、日本人の胃がん発症の遺伝的要因を明らかにすることである。本年度は、以下の研究を行った。1. E-カドヘリン遺伝子の生殖細胞系の片アレル特異的なDNAのメチル化が胃がん発症の遺伝的要因であるかどうかを調べるために、家族性胃がん、若年発症胃がん患者のうちE-カドヘリン遺伝子の生殖細胞系変異を有しない症例の血液および胃がんの孤発症例のうち腫瘍組織でE-カドヘリンタンパク質の発現が損失していた症例の胃の非腫瘍組織から抽出したDNAを用いてE-カドヘリン遺伝子のプロモーター領域のDNAのメチル化の程度を二つのアレルの間で比較した。二つのアレルの間でDNAのメチル化の程度に違いがある症例は見つかったが、片アレル特異的にDNAのメチル化が起きている症例は見つからなかった。2. 家族性胃がん患者で発現異常を示す遺伝子を同定するために、健常者と家族性胃がん患者の血液から抽出したRNAを用いて、発現解析を行った。健常者群と家族性胃がん患者群との間でmRNAの発現量に有意な差がみられた遺伝子が数種類存在した。今後は、これらの遺伝子に加え、健常者群のmRNAの発現量の平均値と個々の家族性胃がん患者のmRNAの発現量を比較し著しく発現が変化している遺伝子を抽出し、定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応によって、発現解析で得られた結果と一致する遺伝子を抽出する予定である。
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