本研究の目的は、家族性胃がんという胃がんを発症しやすい家系における遺伝子異常を同定することにより、日本人の胃がん発症の遺伝的要因を明らかにすることである。最近、E-カドヘリン遺伝子の生殖細胞系列での点突然変異または数塩基-数十塩基のフレームシフト変異をも有しないヨーロッパ人およびカナダ人の家族性胃がん家系において、E-カドヘリン遺伝子のエクソンが欠失している家系が存在することが報告された。本年度は、日本人の家族性胃がん家系において、生殖細胞系列でのE-カドヘリン遺伝子のエクソンの欠失が存在するかどうか調べるために以下のことを行った。1.E-カドヘリン遺伝子の生殖細胞系列変異を調べていない家族性胃がん7家系についてE-カドヘリン遺伝子の変異をシークエンシング解析によって調べた。7家系のうち1家系で1塩基の欠失変異が見つかった。この変異は短いE-カドヘリンタンパク質を産生することが予想された。2.上記1.で用いた家系を含むE-カドヘリン遺伝子の生殖細胞系列変異を有していない家族性胃がん12家系について、E-カドヘリン遺伝子のエクソンの欠失が存在するかどうかをMLPA法によって調べた。12家系のうち1家系でエクソン3の欠失が見つかった。E-カドヘリン遺伝子のエクソン3の欠失は短いE-カドヘリンタンパク質を産生することが予想された。以上のことから、日本人の家族性胃がんにおいてもE-カドヘリン遺伝子のエクソンの欠失を有する家系が存在することが示され、家族性胃がんにおけるE-カドヘリン遺伝子の遺伝子検査においてはMLPA法によるエクソンの欠失のスクリーニングを行う必要があることが示唆された。
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