研究概要 |
先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染が難聴を来す病態を調べる目的で、コルチ器の存在する内リンパ環境の維持に関わる蝸牛の血管条(SV)とラセン靭帯(SL)に着目し、CMV感染によるイオン輸送分子の発現変化を検討した。主としてSVで発現する分子としてKCNQ1、Na^+,K^+-ATPase、Kir4.1を、SLに発現する分子としてcarbonic anhydrase (CA) II、connexin (Cx) 26、Cx30の発現をマウス内耳凍結切片における蛍光免疫染色法でそれぞれ観察した。陰性ヌントロール群においてKCNQ1とCAII出生直後から成長するまで持続的に良好な発現を示す一方、Na^+,K^+-ATPase、Kir4.1、Cx26、Cx30は生後14日頃までは発現が低くかつ限局的で、その後発現が増強し分布が拡大した。これはマウスの聴覚が出生後2~3週で完成するとされている過去の報告と合致する所見と考えられた。ところがlipopolysaccharide (LPS)投与+CMV感染群では、14日を超えても上記分子の発現増強や拡大は乏しく、SVやSLは低形成であった。CMVウイルス抗原は感染後7日から10日をピークとして抗原陽性細胞数は減少し、感染28日にはほとんど消失した。また、同群ではラセン神経節神経細胞数の減少もみられた。 このことから、CMV感染がSVやSLに含まれる細胞に直接傷害を与えるのみならず、いったんCMVが感染することでSVやSLにおける細胞の発育や機能発現に間接的に影響を及ぼす可能性が示唆された。本来ならば出生後持続的な音響刺激によって完成される聴覚機能が、CMV感染によって初期に音響刺激に不応な状態が形成されることで聴覚伝達にかかわる神経組織の退縮を招来し進行性の難聴へ進展するという病態が推測された。
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