本研究の目的は、ミトコンドリアDNA突然変異解析を用いて、Barrett食道から食道腺癌の発生過程を検討することであるが、本邦と欧米ではBarrett食道の定義が異なっている。本邦では、"Barrett粘膜の存在する食道をBarrett食道"と呼び、"Barrett粘膜とは、胃から連続性に食道に伸びる円柱上皮で腸上皮化生の有無を問わない"と定義されている。一方、欧米では、Barrett食道は前癌病変と考えられており、杯細胞を有する食道円柱上皮が、発癌に関係があると考えられている。平成21年度は、本邦に見られるcardiac-type mucosaが発生するラット逆流モデルの開発に成功し、従来からの欧米型の杯細胞を有するBarrett食道が発生するモデルと対比して、Barrett食道の組織発生について検討した。また、本邦に見られるcardiac-type mucosaと欧米型の杯細胞を有するBarrett食道では、発生する機序や要因が異なる可能性について報告した。さらに、従来からのモデルを用いて、Cytochrome c oxidaseを用いた検討で、ミトコンドリアDNAの変異があると思われる細胞が、Barrett食道内、特に増殖帯に認められることを確認した。また、このミトコンドリアDNAの変異のある細胞は、時間依存性に増加しており、この変異のある細胞は、Barrett食道のみでなく、炎症及び再生性の変化の見られる重層扁平上皮にも認められることも判明した。このミトコンドリアDNAの変異細胞が、Barrett食道の進展を解明する手がかりになると考える。
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