研究概要 |
我々は、DNA修復酵素であるAlkB分子のヒトホモログであるABH family同定に着手した結果、新たにヒトALKBH-8(hALKBH-8)遺伝子をcloningすることに成功した(J Mol Cell Med,2007)。本研究では、hALKBH-8遺伝子のヒト膀胱尿路上皮癌における生物学的機能を解析した。ヒト尿路上皮癌細胞株であるUMUC2および3を用いてhALKBH-8遺伝子をノックダウンすると、NADPH oxidase (NOX)1発現ならびに細胞内活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)産生が有意に低下し、apoptosisが誘導されることが分かった。この際、MAP kinaseであるc-jun NH2 terminal kinase (JNK)とp38の活性化ならびにこれらに依存したγH2AXのリン酸化が誘導されることも明らかとなった。NOX1遺伝子のノックダウンによっても同程度のapoptosisやJNK/p38/γH2AX活性化をもたらされたが、JNK,p38阻害剤処理やγH2AXのノックダウンによりhALKBH-8ノックダウン誘導性apoptosisが有意に抑制されることが分かった。さらに、尿路上皮癌をnude miceに同所性移植した後、膀胱内にhALKBH-8 siRNAを注入した結果、同遺伝子発現ならびに腫瘍体積の有意な低下を認めるとともに、上記シグナル伝達についても再現性を確認できた。さらに、ヒト膀胱尿路上皮癌組織を用いた免疫組織化学的解析の結果、hALKBH-8は高異型度、浸潤癌においてより強く発現することが分かった。以上から、hALKBH-8は、尿路上皮癌細胞においてROS産生の維持と細胞生存シグナルの促進に深く関与しており、高悪性度膀胱癌における新しい分子標的となる可能性が示唆された(Shimada et al. Cancer Res, 2009)。
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