研究概要 |
ALKBHはE.coli DNA修復酵素であるAlkBのヒトホモログで、我々は、このファミリー分子のひとつであるALKBH-3が前立腺癌に強く発現し、アポトーシス抵抗性の獲得と浸潤能の促進を介してホルモン非依存性前立腺癌の進展にかかわることを見いだした(Clin Cancer Res, 2005 ; Cancer Sci, 2008)。膀胱癌について発現解析をおこなったところ、ALKBH-8が正常細胞に比較して尿路上皮癌細胞において強く発現し、その発現陽性率が膀胱癌の悪性度(grade)や深達度と有意に相関することが判明したことからALKBH-8が膀胱癌の進展を把握する上で重要な病理学的因子となると考えられた。膀胱尿路上皮癌細胞株を用いたsiRNA導入実験により、ALKBH-8遺伝子ノックダウンがNADPH oxidase (NOX)-1発現ならびに細胞内活性酸素種(ROS)産生の低下をもたらし、膀胱癌細胞のapoptosisを誘導すること、また、chorioallantoic membrane assayや膀胱癌同所性移植実験結果から、in vivo ALKBH-8ノックダウンにより膀胱癌細胞の血管新生や増殖、浸潤能が有意に抑制されることが分かった。以上から、ALKBH-8はNOX-1を介した細胞内活性酸素種ROSの産生とこれに関連した癌進展メカニズムに関与し、ALKBH-8遺伝子の機能を遮断することで強い癌抑制効果を発揮することが明らかとなった。ALKBH-8を最上流とする(NOX-1)-(ROS)-(増殖・浸潤・血管新生)という分子シグナルが膀胱癌進展に重要な役割を担うことが示唆される。また、この知見をもとに、活性酸素種を蛍光標識して尿中に剥離した陽性細胞を検出し形態的診断を加味することで尿細胞診における膀胱癌の診断精度が有意に向上することを確認しており、病理組織、細胞診断への更なる応用が期待される。
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