腫瘍細胞は悪性化の過程で癌抗原分子などを発現し、「異常な自己」として免疫系に認識され排除される。しかしながら実際は、多くの腫瘍細胞が免疫監視を逃れ癌化学療法や免疫療法の効果を限定している。その原因の一つとして、腫瘍細胞死に伴う免疫寛容の誘導が考えられている。一方で、放射線や抗がん剤で死を誘導した腫瘍死細胞をマウスに皮下投与しておくとがん免疫が成立し、腫瘍の増殖を抑制できることも知られている。本研究の目的は、腫瘍細胞死と免疫抑制の関連を明らかにすることである。 申請者は皮下投与された腫瘍死細胞がリンパ流に乗って所属リンパ節に運ばれ、CD169陽性マクロファージに貪食されることを、免疫組織学的検査とフローサイトメーターで証明した。同マクロファージはCD11c陽性及び陰性サブセットに分類される。セルソーターを用いて精製したマクロファージをくわしく調べたところ、腫瘍死細胞抗原はCD11c陽性CD169マクロファージによって選択的にクロスプレゼンテーションされることが証明された。 我々の研究室ではCD169陽性マクロファージのみを選択的に消失できる遺伝子改変マウス(CD169-DTRマウス)をすでに作成している。このマウスの解析により、マクロファージ非存在下では腫瘍死細胞付随抗原をクロスプレゼンテーションできず、個体レベルでのがん免疫が成立しないことが分かった。以上のデータは、リンパ節に常在するCD169マクロファージが、腫瘍細胞死に伴うがん免疫の成立に中心的な役割を担うことを示している。
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