研究概要 |
マラリア原虫は赤血球侵入時に寄生胞膜を形成し、その中で生命を維持している。この寄生胞膜は、原虫-宿主間の物質輸送に深く関わるなど、原虫の寄生戦略において重要な役割を担っている。本研究では、寄生胞膜への移行シグナル配列の同定と寄生胞膜動態の解析を試みた。 (1)寄生胞膜分子のアミノ酸配列の比較から、分泌シグナル配列の直下にリジンに富む領域が種を超えて保存されていることを見出し、この領域が寄生胞膜への移行に関わっていると予想した。そこで、寄生胞膜分子(EXP1,EXP2)の全長配列、推定領域を含む部分配列、分泌シグナル配列のC末端にGFPを融合した組換え蛋白質発現原虫を作成した。実験には、遺伝子組換えが容易なネズミマラリア原虫モデルを使用した。蛍光顕微鏡による解析を行った結果、寄生胞膜分子のリジンに富む領域は、寄生胞膜への移行には必須ではないことが明らかになった。現在、寄生胞膜への移行に関わる部位を検索している。(2)寄生胞膜動態の解析を行うために、熱帯熱マラリア原虫の寄生胞膜分子(EXP1,EXP2)の特異抗体を作成した。間接蛍光抗体法による解析により、寄生胞膜は赤血球侵入後16時間後から急速に伸長し、24時間以降では赤血球細胞質側に寄生胞膜から派生した膜系が形成されることが明らかになった。さらに、免疫電顕法により、これらの特異抗体は寄生胞膜、管小胞膜ネットワーク、サーキュラークレフトに反応することを確認した。(3)本研究により、熱帯熱マラリア原虫の寄生胞膜の可視化に成功した。さらに、蛍光抗体法(光学顕微鏡レベル)と免疫電顕法(電子顕微鏡レベル)の解析を組み合わせることで、寄生胞膜の形成と分子の輸送を電子顕微鏡レベルで経時的に解析することが可能であることを確認した。
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