熱帯熱マラリア原虫はヒトに感染すると脳マラリアなどの重症病態を引き起こし、致命的な障害を与えることから悪性のマラリア原虫と呼ばれている。一方で、良性の三日熱マラリア原虫が複合感染している場合、脳マラリアなどの重症病態が抑制されることがある。この抑制機序を解明するために、まず、脳マラリアの実験モデルとして多用される強毒株のマウスマラリア原虫Plasmodium berghei (Pb) ANKAと、弱毒株のマウスマラリア原虫Pb XATを用いて、マウスマラリア原虫複合感染による脳マラリア抑制モデルを樹立した。さらに、IL-10KOマウスにPb ANKAとPb XATを複合感染させると脳マラリアを発症することから、マウスマラリア原虫複合感染による脳マラリア抑制効果にはIL-10が非常に重要な役割を果たしていることを見出した。 次に、IL-10によって脳マラリアが抑制される機構を調べるために、IL-10 Receptor(R)発現細胞について解析を行った。FACS解析の結果、Pb ANKA単独感染マウスの感染後6日目の脾臓において、IL-10R発現細胞の殆どがCD3陽性を示した。一方、Pb ANKAとPb XATとの複合感染マウスの感染後6日目の脾臓では、IL-10R発現細胞の殆どがCD3陰性を示し、Pb XAT単独感染の場合と同様であった。複合感染させたIL-10KOマウスの感染後6日目の脾臓では、CD3陽性とCD3陰性のIL-10R発現細胞がそれぞれ認められた。なお、感染後3日目ではいずれの感染においてもIL-10R発現細胞はCD3陰性であり、変化は認められなかった。これらの結果から、感染後6日目に脾臓に蓄積したCD3陽性IL-10R発現細胞が脳マラリアの発症に関与している可能性があること、また、脳マラリアの抑制に非常に重要な役割を果たすIL-10は、感染後3日目以降においてCD3陽性IL-10R発現細胞の分化または増加を抑制している可能性があることが推察された。本年度の研究成果により、マラリア感染におけるIL-10R発現細胞の動態が示され、複合感染による脳マラリアの抑制とIL-10R発現細胞の動態が密接に関与している可能性を示唆することができた。
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