研究概要 |
本研究課題では、我が国における主要な食中毒原因菌である腸炎ビブリオ感染によって引き起こされる下痢に寄与する病原因子の同定と作用機序を明らかにすることを目的とした。ウサギ腸管ループ試験(腸炎ビブリオの下痢原性を評価するin vivoのアッセイ系)を用いて本菌の下痢に寄与する因子として、3型分泌装置2によって分泌される新規エフェクタータンパク質、VopEを同定した。VopEは腸炎ビブリオだけでなく、non-01,non-O139コレラ菌もVopEと類似の遺伝子を保有していること、さらにコレラ菌のVopEもコレラ菌の下痢誘導活性に寄与していることが明らかとなった。VopEによる下痢誘導機構を明らかにするために、VopEと相互作用(結合)する因子を検索したところ、宿主細胞の細胞骨格を形成するタンパク質が同定された。このタンパク質と結合するVopE内の領域の同定を試みたところ、興味深いことにVopEは複数の結合領域を持ち、その結果、細胞骨格を形成するタンパク質を束ねる活性を持つことが明らかとなった。さらにVopEの細胞骨格を形成するタンパク質との結合領域は下痢誘導活性に必須であった。以上の結果より、本研究で同定したVopEは腸炎ビブリオだけでなくコレラ菌の下痢原性にも寄与している新規病原因子(下痢誘導因子)であること、VopEと宿主細胞の細胞骨格を形成するタンパク質との結合がVopEによる下痢誘導に必須であることが明らかとなった。これらの結果は、腸炎ビブリオやコレラ菌の下痢誘導機構の解明につながるだけではなく、感染および発症予防法の確立に繋がることが期待される。
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