研究概要 |
ボツリヌス菌は産生する神経毒素の抗原性の違いにより、A~G型に分かれる。これらのうち、C型とD型菌のみホスホリパーゼC(PLC)を産生する。一方、ウエルシュ菌α毒素は、ガス壊疽の病原因子であり、PLCとスフィンゴミエリナーゼ(SMase)の2つの酵素活性を有している。我々はC型とD型PLCをコードする遺伝子(botα)の全塩基配列を決定した。この情報をもとに、組換えD型PLC(Dbotα)の発現および精製を行い、酵素活性(卵黄活性,溶血活性など),生物活性(マウス致死活性)を測定し、α毒素と比較した。 Dbotαはα毒素とは53%の相同性を示し、α毒素で酵素活性に重要であるZn^<2+>結合モチーフがよく保存されていた。Dbotαの卵黄活性は、coCl_2存在下でα毒素と比べて1/10低い活性を示した。溶血活性においては、CoCl_2存在下でウサギ赤血球を用いた場合、α毒素と比べて1/1,000低い活性を示したが、ヒツジ赤血球ではほとんど活性が認められなかった。ホスファチジルコリン(PC)-またはスフィンゴミエリン(SM)-リポソームの破壊作用においては、Dbotαはα毒素と比べPC-リポソームでは1/100、SM-リポソームでは1/60低い活性を示した。また、ウサギまたはヒツジ赤血球膜の結合を調べると、Dbotαはα毒素に比べて強い結合を示した。SM-またはPC-リポソームを用いた場合でも同様であった。BIAcore解析により、基質(PC)とDbotαとの親和性を調べたところ、Dbotαはα毒素に比べてPCに対する強い結合を示した。一方、マウスの致死活性では,Dbotαはα毒素に比べて1/1,500低い活性であった。従って、Dbotαは卵黄活性を示し、赤血球膜に結合できるが、溶血および致死活性はα毒素と比較して著しく低いことが結論された。
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