アエロモナスは淡水中に多く生息するグラム陰性桿菌だが、海水中では菌数が減少する。これまで、食塩存在下でのアエロモナスの菌体外毒素産生を調べた結果、本菌は3%食塩存在下ではプロテアーゼおよびリパーゼの産生が抑制される事を見いだし、メタロプロテアーゼの産生抑制は食塩存在下での転写阻害が原因である事を明らかにした。 これまでにメタロプロテアーゼ遺伝子周辺を解析した結果、本遺伝子の下流にはLysRタイプ転写調節因子(LTTR)遺伝子(lysR遺伝子)が存在し、A.sobria288株ではメタロプロテアーゼ遺伝子の上流領域-30~-16領域にLTTRが認識するLTTR box(ATC-N9-GAT)が存在する事が分かった。LTTRは様々な菌種で報告される転写調節因子であり、その転写調節機能にはco-factorを必要とする。LTTRの中には、Naイオンをco-factorとするものも報告されている事から、本遺伝子下流に存在するLTTRもメタロプロテアーゼ遺伝子の転写調節に関与しており、食塩による転写阻害と関連しているのではないかと考えた。 そこで、A.sobria288株のlysR欠損株を作製し、様々な条件で培養し、野生株と欠損株でメタロプロテアーゼの産生に変化が見られるかを調べた。その結果、15℃から37℃のいずれの温度で培養しても、lysR欠損株と野生株でメタロプロテアーゼの産生に違いは見られなかった。また、食塩濃度を3%に調製した培地で培養し、メタロプロテアーゼの産生を調べたが、いずれの株もメタロプロテアーゼを産生しなかった。同様に、培養上清に含まれる菌体外蛋白質を比較した結果、両株で検出される蛋白質に顕著な差は見られなかった。これらの結果から、このlysR遺伝子は今回調べた条件下ではメタロプロテアーゼ、および菌体外蛋白質の発現には関与していないと考えられた。
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