ヒアルロン酸はN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の2糖による繰り返し構造から成るきわめて高分子のポリマーであり、脊椎動物において、関節や皮膚など広く生体内の細胞外マトリックスの主成分として含まれる。ヒアルロン酸は結核菌の感染に大きな役割を果たしており、菌が宿主細胞へ侵入する際の足がかりになるのみならず、菌の細胞外増殖における栄養源として利用されている可能性も示唆されている。本研究では、BCG菌体抽出蛋白質を細胞質画分および膜画分に分離し、ヒアルロン酸分解活性をMorgan-Elson法にて検討したところ、膜画分に酵素活性が存在することを明らかにした。また、この活性画分はヒアルロン酸分解酵素阻害剤であるascorbyl palmitateにより阻害されることから、他の細菌で報告されるヒアルロニダーゼと類似の酵素であることが推測される。また、この酵素活性は結核菌およびBCGでは検出されたが、同じ抗酸菌においてもM.aviumおよびM.smegmatisでは検出されなかった。以上のことからヒアルロン酸分解能が抗酸菌の病原因子の一つとして働いている可能性が示唆される。さらに活性画分を粗精製し、当該画分に含有される蛋白質をLC/MSを用いて同定し、得られた蛋白質群をそれぞれコードする遺伝子の塩基配列を既に報告されている他の菌属のヒアルロン酸分解酵素の塩基配列と比較したが、相同性のある配列を見いだすことができなかった。そこで、組換え蛋白質発現ベクターであるpGEX-6P-1および大腸菌BL21株を用いて組換え蛋白質を作製発現させた。今後はこれらの組換え蛋白質にヒアルロン酸分解活性を有するものがあるかをスクリーニングし、標的酵素を同定する予定である。
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