最近、腸管免疫学の進歩により、粘膜面での免疫機構が明らかになってきた。特にバイエル板は、小腸に散在しているリンパ組織で、腸管免疫の中心的な役割を果たしている。また一方で、全身に感染する多くの病原細菌は、バイエル板のM細胞を侵入門戸としていることから、バイエル板は免疫誘導と感染の最前線となっている。腸管病原性大腸菌などは、腸管上皮細胞に付着し下痢を誘導するが、バイエル板が感染にどう影響をしているか不明であった。そこで、今回バイエル板欠損マウスを作成して、Citrobacter rodentium (C.rodentium)を経口投与し、その感染性を調べた。C.rodentiumに対して高感受性のC57BL/6と低感受性Balb/cマウスの2系統でバイエル板欠損マウスを作成した。これらのマウスにC.rodentiumを投与した結果、通常のC57BL/6は1-2週間をピークに感染し、その後除菌される。しかし、バイエル板欠損マウスの糞便中の菌数を観察した結果、野生型のマウスに対して遙かに少ない菌しか存在しなかった。しかし、Balb/cでは、感染菌数はC57BL/6よりも少ないながら野生型でも欠損マウスでも観察された。また、感染したBalb/cから腸間膜リンパ節を死菌で再刺激しても、得られた反応は野生型のそれと同程度見られた。つまり、メカニズムは不明だが、C57BL/6では、菌の感染にバイエル板は必要であることが示唆される。細胞外寄生菌にとってもバイエル板は感染を成立させるために必要である可能性が考えられる。しかし、Balb/cでは、野生型とパイル板欠損マウスで、菌の定着や免疫応答、抗体産生などに大きな差が見られなかった。つまり、感受性の高いマウスのバイエル板には、特異的に付着することができ、結果として定着菌数を多くし、下痢を起こさせると考えられる。
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