本年度は下痢を引き起こすコレラ毒素(CT)及び毒素原性大腸菌易熱性毒素(LT)が示す粘膜アジュバント活性メカニズムを、宿主細胞に引き起こすcAMPの増加の関与に焦点を当てて解析を行った結果、以下のことが明らかとなった。 1.精製CT、Aサブユニットの無毒変異毒素(mCT)及びBサブユニット(CTB)を、卵白アルブミン(OVA)とともにマウスに経鼻投与し、血中の抗OVA抗体の誘導能を比較したところ、CTとの免疫群で最も高い抗OVA抗体を誘導した。 2.1.の結果を踏まえ、マウスの脾臓細胞に対して各CTを添加し、cAMPシグナルの下流に存在するCREBのリン酸化を調べたところ、CTで最も高いリン酸化が認められたが、mCTやCTBでは認められなかった。その上流に存在するキナーゼの関与を調べるため、各キナーゼの阻害剤で前処理した脾臓細胞に対してCTを添加した結果、CTによるCREBのリン酸化はプロテインキナーゼA阻害剤で完全に阻害され、部分的にp38 MPAキナーゼ阻害剤でも阻害されたことより、これらのキナーゼの関与が示唆された。 3.この経路に関与する細胞を同定するため、脾臓細胞からB細胞とT細胞をそれぞれ分離して各CTを添加したところ、いずれの細胞でもCREBの高いリン酸化が認められた。さらに詳細な解析を行うため、レセプターであるGM1付近に存在すると考えられるキナーゼの関与の解析を行うとともに、CREBのリン酸化がサイトカインの産生にどのように影響するかを検討している。 以上のことより、CTはPKAまたは部分的にp38 MAPキナーゼの経路を介してCREBをリン酸化しており、抗体価がパラレルであることより、アジュバント活性とも関与している可能性が考えられる。この結果は経鼻投与という侵襲性の少ない投与経路で、より効果的に高い抗体産生を誘導できるワクチンの開発に貢献するものであると考えられる。
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