本研究は、コレラ毒素(CT)を粘膜アジュバントとして利用する基礎データを得るため、そのメカニズムを分子レベルで解明するために行った。22年度は、21年度に得られたCTによるCREBリン酸化がアジュバント活性に関わるか否かを調べるために以下の実験を行い、結果を得た。 1.CTによる脾臓T細胞とB細胞におけるCREBのリン酸化が、CTの直接相互作用によるものかを調べるために、ビオチン標識CTとCTBを作用させたところ、いずれも強く結合したが、GM1非結合変異CT(G33D)はCREBのリン酸化を起こさなかったことより、CTによるCREB活性化シグナルにはCTBとGM1の結合は必須ではあるが、この結合刺激がシグナルを誘導しているのではないことが明らかとなった。 2.各CTをマウスに経鼻投与した後、採取した脾臓細胞を各CTやCTBで2次刺激した時のサイトカインの産生を調べたところ、CTを基礎免疫したマウスでの脾細胞の2次刺激応答はCTまたはE112Qでのみ高く産生されたが、E112Qで基礎免疫したマウスではCT、E112Qのいずれの2次刺激においてもあまり誘導されないことより、CTの活性は免疫初期の免疫記憶の形成に関わることが考えられた。 3.CTによるCREBリン酸化の影響を直接評価できる株化細胞モデルを検討したところ、ヒトT細胞株であるJurkat E6.1がマウス脾細胞と同様のリン酸化の挙動を示した。本細胞はIL-2産生株であることより、CREB遺伝子のノックダウンまたはドミナントネガティブ変異CREB遺伝子を導入することにより、CTによるCREBリン酸化とアジュバント活性の関連を解析できる可能性があり、現在その細胞株の作製を行っている。 現在、CTや毒素原性大腸菌易熱性毒素(LT)はその毒性による懸念から無毒変異体が検討される傾向にあるが、野生型毒素の酵素活性がアジュバント活性に重要であることは明白であり、量をコントロールまたは経鼻以外の投与方法を用いることにより応用可能であると考えられる。
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