研究課題
赤痢菌はグラム陰性病原細菌の一つで、腸管上皮細胞に侵入し上皮細胞を破壊することによって炎症性下痢を引き起こすのだが、その細胞破壊プロセスの詳細は不明な点が多い。この感染細胞の破壊に至る分子機構には赤痢菌側因子と宿主側因子の様々な相互作用の関与が推測される。我々は、感染細胞内において赤痢菌工フェクターOspE2ならびに腸管出血性大腸菌エフェクターEspO1-1-EspO1-2(OspE2ホモログ)が破壊抑制因子として関与している可能性を見出した。OspE2およびEspO1-1は感染上皮細胞内においてIntegrin-linked kmase(ILK(、宿主因子)と結合することによって細胞接着斑の形成を維持・促進した。一方、EspO1-2は感染細胞内において細胞接着斑に局在することなしに細胞外基質への細胞接着を維持する機能を有した。上皮細胞内で異所発現したEspO1-2とEspM2は共局在し、EspO1-2はEspM2によって促進されたストレスファイバーのターンオーバや細胞収縮を抑制した。EspO1-2のC末端領域にはEspM2結合領域が存在することが示唆された。この領域はゲノム配列が決定された腸管出血性大腸菌O157(Sakai株)、O26(11368株)、O111(11128株)のEspO1-2ホモログによく保存される一方、EspO1.1ホモログには保存されないことが明らかとなった。また、赤痢菌のospE2変異株感染細胞において認められた細胞破壊は、ipgB2 virAの欠失、すなわちOspE2 ipgB2 virA変異株感染によって細胞形態およびアクチンブイラメントの回復が認められた。このように、赤痢菌や腸管出血性大腸菌などの腸管感染症を引き起こすグラム陰性病原細菌は効率的ならびに持続的な感染を成立させるために、エフェクターの宿主細胞内シグナルの修飾によって、上皮細胞の破壊を「昂進する作用」と「抑制する作用」を調整して感染細胞の急激な破壊を制御することが示唆された。
すべて 2011
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Emerging Infectious Diseases
巻: 17 ページ: 2060-2062
DOI:10.3201/eid1711.110280