研究概要 |
ポリオウイルス(PV)は,小児マヒ(ポリオ,急性灰白髄炎)の病因として知られる向神経性のRNAウイルスである。本研究では,ポリオウイルスによる疾患発症に到るまでの過程の内,消化管から血中を経て,中枢神経系への伝播における1)細胞レベルでの侵入機構,細胞内輸送および局在化機構,2)分子レベルでのキャプシド機能領域のリモデリングに焦点を合わせ,それらの生物学的反応に関与する宿主の分子群とその機能を探索し,ポリオウイルスの感染現象における基本を分子レベルで明らかにすることを目的とした。以下に本研究による成果を示す。 1)PVの感染用レセプターとしてヒトCD155/PVRが知られていたが,本研究において血液脳関門(BBB)透過用の新規レセプターとしてCD71をプロテオーム解析から同定した。実際に,PVがBBBを構成する脳血管内皮細胞においてCD71と共局在し,細胞膜表面からエンドサイトーシスすること,既知リガンドであるトランスフェリンによってPVの細胞内侵入が阻害することを共焦点レーザー顕微鏡で観察した。さらにPV粒子が認識するレセプター結合領域をin vitro結合実験系を用いて明らかにし,CD71のこれまで機能未知であったドメインをPVが認識することを証明した。 2)PVキャプシド由来ペプチドを大腸菌で発現および精製することに成功した。さらにCD71との結合部位をin vitro結合実験系を用いて同定し,PVキャプシド上のcanyon領域がレセプター結合活性を示すことを明らかにした。さらにPVキャプシドを構成するVP1ポリペプチド上の特定のループ構造が細胞表面レセプターの認識および細胞透過に関与することが薬理動態学的解析およびin silico解析から考えられた。この結果は,PVにおける血液から中枢神経系への効率的な物質輸送の分子機構を理解する上で重要な知見である。
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