クロイツフェルト・ヤコブ病や牛海綿状脳症などのプリオン病は、異常な立体構造を持つプリオン蛋白質(異常型PrP)が原因とされる致死性の神経変性疾患である。人や動物の脳内には正常な立体構造を持つプリオン蛋白質(正常型PrP)が存在しているが、外から侵入した異常型PrPが正常型PrPの立体構造を次々と異常型へと変換し、異常型PrPが脳内に蓄積することによって発病すると考えられている。このようなプリオン病を克服するには異常型PrPの構造や構造変換メカニズムなどを解明する必要があるが、不溶性などの理由から異常型PrPの構造解析は十分には行われていない。 そこで本研究では、任意のアミノ酸部位二ヶ所を蛍光標識したデュアルピンポイント蛍光標識プリオン蛋白質(二重蛍光標識プリオン蛋白質)を作製し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いて異常型PrPの構造解析を行う。 今年度はN末端およびC末端をBODIPY558およびBODIPY_FLで蛍光標識したプリオン蛋白質を合成し、ニッケルアフィニティー精製の条件検討を行った。その結果、精製には低pHと高濃度のイミダゾールが必要であることが明らかになった。 精製した二重蛍光標識プリオン蛋白質の濃度は約10nMとかなりの低濃度であったが、蛍光スペクトルを測定するとアクセプター(BODIPY 558)のピークが観測された。これをグアニジン塩酸塩で変性処理するとピークが消失したことから、FRETが起こっていたことが示唆された。また、プリオン蛋白質由来のアミロイド線維断片と混合すると、FRETが消失して構造変化が観測された。今後、構造変化の観測など、さらに詳細に解析する予定である。
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