申請書に記載したとおり、本年度はRac2の抗 HIV-1活性の作用機構を解明した。Rac2高発現または低発現タイプのアリルを持つ末梢血単核球(PBMC)にR5-HIV-1を感染させた場合、前者に比べて低発現アリルPBMCでのウイルス増殖効率が有意に高い。これはRac2がウイルス増殖を抑制している可能性を示唆している。そのメカニズムの解明のために細胞モデルを作成した。HIV-1が感染し、またRac2の発現が認められるTHP-1細胞にRac2 shRNAを導入し、細胞株を樹立した。Rac2 shRNAは異なるターゲットを持つもの3種を使用した。樹立された細胞3種のRac2発現は種々の程度で減少していた樹立細胞にR5-HIV-1を感染させるとRac2の発現量に依存して増殖効率が変動する事が認められ、細胞デルとして使用できると分かった。VSVG pseudo-HIVは、HIV-1感染過程の1部を再現でき、感染が成立するとルシフェラーゼを発現する。このウイルスを樹立細胞に感染させたところ、Rac2発現が高い細胞でもルシフェラーゼ発現は低下しなかった。これはRac2はよる抗HIV-1活性はVSVG pseudo-HIVが再現する感染過程とは違うところで作用していることを示している。そこでその過程について調べたところ、Rac2がHIV-1感染に必須のCCR5発現を制御すること、HIV-1感染に負に働くCCR5 ligands発現を各々mRNAレベルまたはタンパク発現レベルで制御する事が明らかとなった。さらにこれらの結果は、様々なRac2アリルを持つヒト正常PBMCを使用した実験からも追認できた。Rac2抗HIV-1活性の作用機構における今回の解明から新たな感染防御法の開発が期待される点、意義深い。またこの成果は免疫担当細胞でのRac2の働きの解明にも寄与する。現在、学術雑誌に論文投稿中である。
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